本来自身の作品を、殊制作中の作品を語る行為は所謂「禁じ手」であると承知してはいますが、ここで新本格ビジュアルノベルとは何かについて話させてください。

ビジュアルノベル、ノベルゲームという作品形態は、1992年の弟切草に始まり20年近く進化してきました。私もその幾つかの作品に魅了された人間です。

しかし、組織基盤・ゲームという制約・大作志向・流通などを問題にして、ビジュアルノベルは今疲弊していると私は考えています。大作であり、立ち絵・背景・メッセージという画面構成であり、文章が舵取りをする。そうした従来のノベルゲームという形態は確かに洗練され完成度の高いものですが、同時にいささか停滞を感じてしまうものでもあります。

私の考えの根本は「ビジュアルノベルの電子書籍としてのリブート」にあります。

ビジュアルノベルという鉱山には、まだ掘り起こされていない鉱石が多く眠っています。しかも奥深くに眠っているわけではありません。既存の技術・既存の人材で掘れる深度にあります。十分に進化の余地は残っているのです。

私はビジュアルノベルが「電子書籍のスタンダード」足りえる、あるいは映画・漫画・小説・ゲームなどと並ぶ「一つのアーキテクチャ」足りえる地力すら持っていると考えています。

そのいわば"先駆"として、この新本格ビジュアルノベル「黒と白の螺旋階段」を提示できたら。そう考えながら現在制作に当たっています

"新本格"という語は、1990年代頃からミステリ界隈で起きた潮流・作家群から取りました。新本格派の作家たちは古典的な設定・手法を再起させつつその時代に即した色を加え、一大ムーブメントとなりました。

私たちもそれに倣い、"新たなる本格"の礎になりたいと分不相応ながら思っています。

作り手だけでなくユーザーの方も、ビジュアルノベルの古くそして新しい可能性を再考して頂く。この作品がその一助になれば幸いです。

2010年12月26日 「黒と白の螺旋階段」監督 KENT